
東京へ出かけた日、息子がふとこう言った。
「最近、通っているんだけど、行ってみる?」
案内されて向かった先が、昔ながらの銭湯だった。
暖簾をくぐった瞬間、時間がゆっくりと逆戻りし、
昭和の空気がふわりと身体にまとわりつく。
番台に座るおかみさんは、もうかなりのご高齢。
柔らかな笑顔で迎えてくれるその姿を見ているだけで、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
湯船につかると、知らないお客さんが当たり前のように話しかけてくる。
「今日はちょっと熱いねえ。」
その一言が、なぜか懐かしい。
初対面なのに、なぜか心が緩む。
銭湯には、そんな不思議な力がある。
薪で沸かしたお湯は、やわらかくて、角がない。
身体の芯まであたたまると、不意に思う。
――この光景は、いつまで続くんだろう。
高齢のおかみさんが守ってきた時間と空気。
昭和から続く紙しばいの世界とどこか重なって見えて、
少しだけ胸がきゅっとなる。
今、学生やスタッフとよく話すことがある。
「AIにはつくれない、人の温かさって何だろう」
その答えにいちばん近いものが、この湯気の中に漂っていた。
湯船に身をゆだねながら、
これからの紙しばいのあり方を静かに考える。
そんな、どこか懐かしく、やさしい時間だった。
地エネの湯


岩の湯(赤羽岩淵) | 地エネの湯
閑静な住宅地に佇む、昔ながらの見事な宮造り建築の銭湯です。ご主人は海外経験もありながら、純日本的なこの銭湯の魅力を再認識して、昔ながらの姿のまま守られているとい...






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